の作業

「声の高さは訓練では変わらない」と書いていた。それは間違いだった

自分のツールが出す助言を音声学の観点で点検したら、4箇所が事実として誤っていました。危ない練習まで書いていた。全部書き直した記録です。

声を測って「ここを鍛えるといい」と出すツールを作りました。出来上がってから、その助言の中身を音声学の観点で点検しました。

4箇所、事実として間違っていました。そのうち1つは、読んだ人が喉を痛めかねない書き方でした。

全部書き直したので、その記録を残します。同じものを作ろうとしている人がいたら、私と同じ場所で転ばずに済むはずです。

間違い1. 高さは変わらないと書いていた

最初のバージョンには、こう書いてありました。

声の高さは訓練で変えるものではありません

これは間違いです。ふだん喋るときの高さ、いわゆる習慣的な話し声のピッチは、訓練で動きます。実際、そのための方法は確立されていて、専門家が仕事として扱っている領域です。

私が混同していたのは、声帯そのものの物理的な大きさと、その人がふだん使っている高さの違いでした。前者は変わりません。後者は変わる。別の話です。

ただし、ここをツールの「鍛えどころ」の1位に出すのは今もやめています。理由は2つあります。ひとつは、無理に低く出そうとして喉を締める人が出るから。もうひとつは、高さは良し悪しではないからです。高い声は高い声で効く場面があって、それは点数の低さではありません。

いまは高さの話を「鍛えどころ」から外して、別の枠に置いています。あなたの高さはこのあたりで、こういう場面で効く、という書き方に変えました。

間違い2と3. 用語を取り違えていた

アルファ比という数字を「共鳴の良さ」と説明していました。違います。あれは主に声帯の閉じ方を反映します。きっちり閉じれば張った音になり、ゆるいと息が混ざる。共鳴ではありません。

2から4kHzの帯域を「口の開き具合」と説明していました。これも違います。この帯域は主に喉頭の上にある細い通り道で作られます。口を大きく開ければ出るというものではない。

どちらも、間違った説明を読んだ人が間違った練習に向かうタイプの誤りです。「共鳴を良くしよう」と思って口を大きく開けても、アルファ比は動きません。動かないので、その人は「自分には効かない」と思ってやめる。最悪の形です。

間違い4. 危ない練習を書いていた

これが一番まずかった。

喉に響かせるように声を出す 芯のある音を探す

どちらも書いてありました。読み返すと、何をすればいいのか分からない。分からないまま「喉に響かせよう」とすると、人は喉を締めます。締めれば一瞬それらしい音は出ますが、続ければ傷めます。

指示が曖昧なだけなら効かないだけで済みます。曖昧な指示が身体の部位を名指しすると、危険になる。ここは分けて考えるべきでした。

書き直した先は、SOVT と呼ばれる考え方です。声道半閉鎖、つまり口の先を細くした状態で声を出す方法をまとめた呼び方で、ストローをくわえて発声するのが代表例です。喉ではなく口の先で抵抗を作るので、喉を締めずに済みます。

用語を正しくしても、誰も動けなかった

書き直して、これで大丈夫だと思っていました。

出来上がった画面を見せたら、こう言われました。

「ストロー発声」と言われても「なにそれ?」で終わると思う

その通りでした。用語を正しくしただけでは、素人は1ミリも動けない。「声道半閉鎖」も「ロングトーン」も「共鳴腔」も、知っている人にしか意味がない言葉です。知っている人はそもそもこのツールを使いません。

なので全部、手順に翻訳し直しました。いまの画面は1つの練習につきこうなっています。

やること、用意するもの、番号付きの手順、なぜ効くのか、1日の目安。この5つです。「ストロー発声」という言葉はどこにも出てきません。出てくるのは「細いストローを1本用意する」「くわえて『うー』と声を出す」です。

さらに図を足しました。「鼻の付け根がむずむずする感じ」は、文字だけではどうやっても伝わらない。顔の絵に印を打つ方が早い。この図でも1回やらかしていて、最初に描いた印は鼻の付け根ではなく目頭を指していました。見せて指摘されるまで気づかなかった。

いまは説明のない専門用語が画面に出ていないことを、毎回機械で確かめています。人の気をつけ方に頼ると、必ずどこかで戻るので。

安全の話を一緒に出す

練習を出す以上、これは必ず付けています。

痛みが出たらやめる。1回10分以内にする。喉が乾いた状態でやらない。声が出しづらい日はやらない。そして、声がかすれた状態が2週間以上続くなら練習ではなく耳鼻咽喉科に行く。

ツールが出せるのは物理特性の測定値だけです。喉の状態は測れません。ここを曖昧にしたまま「鍛えましょう」と言うのは無責任だと思っています。

まだ引っかかっていること

書き直したいま、残っている問いはこれです。

そもそも、測った数字から練習を出すという設計が正しいのか。数字は結果です。喉の締めすぎでアルファ比が高く出ている人と、単に声質がそうである人を、数字だけでは区別できません。前者に「その調子」と言ってしまう可能性が、構造上あります。

いまは安全の注意で覆っていますが、覆いであって解決ではない。測定値から原因を切り分ける方法を、私はまだ持っていません。

声を教えている人がこれを読んでいたら、そこをどう切り分けているのか聞いてみたいです。数字を見ずに耳だけで分かるものなのか、それとも私が知らない見分け方があるのか。

この記事の測り方を、自分の声で試せます。

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